写意画・無根樹100首-第69首#325
無根樹の詩には、天地との調和、陰陽の循環、無限の可能性を秘めた「根源的な力」が表現されています。
この絵は、中国の武当山に代々伝統的に伝わってきた、符図として観念を写意した写意画で、行気（ぎょうき＝気の流れ）によって、観念化された意が画面に宿る技法にて描きます。
道（タオ）の世界には、「符図（ふず）」と呼ばれる霊的・象徴的な図像があります。
これは一種の呪符でありながらも、単なる宗教道具にとどまらず、写意的に描かれた霊的絵画で、観る者の精神面に直接働きかける精神感応的な美術としての力を持っています。
そのため、古来より多くの人々が、不老長寿、健康、吉祥、家庭の調和などを願い、こうした道家的写意画や符図を自宅や書斎、寝室に飾ってきたのです。絵を見ることは、単に美を愛でるのではなく、生活に「道」の気配を招き入れ、心身を調律するための行いとされていました。
このように写意画は、単なる絵画表現にとどまらず、人の精神・生活・宇宙との調和を媒介する芸術です。
この写意画は、「目で見るもの」ではなく「心で感じるもの」です。
それは道（タオ）と通じ、自然の気と共鳴し、観る者の内面を静かに動かす力を持ちます。
符図や写意画は、古より今に至るまで、”人の魂に語りかける「霊なる絵」”として息づいているのです。
下記にこの写意画の意となる「哲理詩」無根樹の原文と、現代日本語訳とその解釈を添えておきましたので、是非お読みください。
※無根樹の作者「張三丰(1247年〜？）」は、太極拳を確立した人物としても有名で、太極拳にもこの無根樹を適用しました。補足として、武当山に伝わってきた太極拳との関連解釈も記載しておきました。
無根樹・第69首
原文
無根樹，花正紅，氣隨意轉不費功。陰陽協調如水流，自然無為入化中。
現代日本語
根のない木に、紅い花が咲く。氣は意に従って巡り、力まずとも自在に動く。陰陽が調和すれば、水のように滑らかに流れる。自然に従い、無為であれば、真の変化の中に入ることができる。
解釈
この詩は、「自然な動き」と「調和から生まれる変化の真髄」を示しています。強く求めずとも、心と氣が一致すれば、すべては流れるように成就するという無為自然の境地が詠まれています。【1】無根樹，花正紅（むこんじゅ はなまさにくれない） 根のない木に咲く紅い花は、情熱や生命力の象徴です。不安定な中にも内なる力があれば、美しく鮮やかに花開くことができるのです。【2】氣隨意轉不費功（きはこころにしたがいて ついえることなくうごく） 氣は意に従って流れ、余分な努力をせずとも動きが生まれる。これが道における「意到則氣到、氣到則力到」の核心です。【3】陰陽協調如水流（いんようきょうちょうして みずのごとくながる） 陰と陽のエネルギーがうまく調和すれば、まるで水のように滞りなく流れ、自然な変化と対応が可能となる。【4】自然無為入化中（しぜんむいにして かのなかにいる） 計らいを離れて自然に従えば、天地の変化と一体化し、あらゆることが道理にかなって成就していく。「入化」とは、自然の変化の理法そのものに溶け込むことを意味します。
太極拳との関連解釈
第69首は、太極拳における「氣と意の一致」「柔順の中の強さ」「自然との一体化」という修養の核心を表しています。【1】無根樹，花正紅：内在する生命の力と表現 不安定な中にも、心が整えば氣が満ち、紅い花のように力強い表現が可能となる。修練による気血の充実と、その表れとしての技の鮮やかさを象徴します。【2】氣隨意轉不費功：意による内功の発動 太極拳の動きは外見の力ではなく、意で氣を導くことで力を生み出すものです。これは「以意領氣、以氣運身」という原理そのものです。【3】陰陽協調如水流：滑らかで絶え間ない動き 攻守・虚実・動静が一体となり、水の流れのように連続した動きが太極拳の理想形です。これは「陰陽互根・陰中有陽、陽中有陰」の具体的実践です。【4】自然無為入化中：無為自然の体現 型にとらわれず、自然と一体になって動くことで、動作が天地の理と一致する。太極拳の極意である「無為にして為す」精神がここに表れています。
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